Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第四十四回「モルディブ」

 訪問時期:2019年5月

 訪問地:マーレ



左上:ゼロ・デグリー・アトール「Dhoni」:モルディブポップスと言えばまずこのグループ。海に浮かぶドーニ(伝統的な船)のデザイン、冒頭の曲で聞こえる船を漕ぐ音がモルディブらしい。2016年にボーカル兼リーダーが死去して解散。この国を訪れる前に通販で購入したが、現地の街の土産屋の片隅に一個だけこのアルバムがあった。

 

左下:アウト・オブ・ドアーズ「Eyzamaanaa」:これもまた通販で購入したモルディブポップスグループのアルバム。曲調的にはゼロ・デグリー・アトールよりも新しく聴き易いが小さな島国的のんびりさもあって良い。この作品は現地のあるリゾート島の土産屋の片隅に一個だけあった。

 

右:セレニティ・ダイズ「Hacksawcracy」:全曲英語で歌われた完全なメタルバンドでモルディブらしさは微塵も無い。現地では結局上記2作品(いずれも通販購入)以外ではCDが見つからず、ヤケになってネットで探したら見つかった作品。

 

(Ling Muコメント)

・なかなかモルディブのポップスというのは馴染みが無いが、その礎は現地人にもリゾート客の間でも有名になったポップスバンド、「ゼロ・デグリー・アトール」。他にもバンドや歌手は沢山生まれており、歌番組もあってその様子はYouTubeで見ることもできる。中には日本のあの名曲をディベヒ語で歌う歌手もいる。意外にもアジアのポップスの祭典「ABUソングフェスティバル」には皆勤賞並みに出場している数少ない国でもある。

 

・そして新婚旅行か家族旅行でもない限りなかなか同国を訪れるチャンスは無いため、独身時代にいくつかの通販サイトから上記「ゼロ・デグリー・アトール」と「アウト・オブ・ドアーズ」の二枚のCDをゲットしていた。そして2019年、家族と一緒に念願のモルディブ訪問が叶い、CDを探したのだが…。あちこち探し回ってやっと見つかったのは既にゲットしていた2枚だけという結果に。そのあたりの顛末は下記レポートを見てみて下さい。海外でCDを買うのが難しい時代になりましたね。

 

 

 

 

 

 

訪れたアジア・中東各国のポップス作品の展示ということで始めましたが、これが今の所最後の訪問国なので、一旦ここで中締めです。またいつか新しい国を訪れたら第45回としてお送りしたいと思います。ま、実はまだ訪れていない国の中には、既にカセットやCDをそこそこ持っている所もあるんですけどね。それはいずれその国を訪ね、現地で手に入れた作品と合わせてご紹介したいなと思います。読んで下さりありがとうございました。

 

では、以後は通常ブログに戻ります。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第四十三回「キルギス」

 訪問時期:2014年9月

 訪問地:ビシケク、チョルポン・アタ

 

 

左上:ミルベック・アタベコフ「Mirbek Atabekov」…中央アジアには割と多いMP3アルバムと思いきや普通のCDだった。キルギス語曲が多いがロシアポップスの影響を受けた曲調が流行りか。

左中:ディナラ・アクロワ「Толук Жыйнак 2012」…こちらはMP3スタイルのアルバム。一枚に何十曲も入っているがプレイヤーでは聴けないのでお気に入りをチョイスしてCDにも焼いた。

左下:ノンストップ「Non Stop」…男女カップルによるデュオグループ。何だかぱっと見ブルース・リーと今の松田聖子の組み合わせみたいな容姿だがノリのいい曲もバラードもなかなかよし。結局別れたことを機に解散したらしい。

右上:グルザダ「Tolgonuu」…人気シンガーソングライター。同国の伝統音楽グループ、オルド・サフナが来日公演した際ゲストボーカルとして一緒に来日。伝統と現代の垣根を越えるような美声を披露した。会場でCDも売られており、本人からサインも頂戴した。

右中:グルム「草原の鍵」…2018年に放送のNHK「のど自慢 the world」に出場してグランプリを獲ったキルギス代表のデビューシングル。日本語曲だけど、キルギス語バージョンがあったら聴きたかったな。

右下:オムニバス「Жаны Ырлары No.4」…現地で最もよく見かけたスタイルのCDは沢山のアーティストの歌を一曲ずつ収録したオムニバス作品。逆にソロアルバムを出せるアーティストはこの国でかなりすごい立ち位置なのかも。

【収録アーティスト】アイペリ・クビク、アンジェリカ、ベギマイ・ベクボエアフ、ドクトル、グルヌル・サディルガノワ、マイラム、ミーラン・バエコフ、ナズィラ・カディエワ、ヌリザ・アバゾワ、ヌルマット・サディロフ、ヌルザダ・ジョルドシェワ、リスクル・バカエワ、ローザ・アマノワ、サイカル・サディバカソワ、サンジャル・トログロフ、スルタン・サディラリエフ、シミク・ベイシェキーフ、ターライ・エレスィ、ティンチティクベク・アイルチエフ、ノンストップ、

 

 

左上:オムニバス「Жаны Жыйнак 8」

【収録アーティスト】アイグル・チャロバ、バクティグル・バディエワ、ベック・ボルビエフ、ダニヤル・エルマトフ、エリムラト、グルジギート・サティベコフ、グルヌル・サディルガノワ、イリヤズ・アブドラザコフ、ケネシュ、クバニッチ・サタエフ、マクサット・ベガリエフ、ミルベック・アタベコフ、テミル・ナザロフ、ウルマット・ウセノフ、カニケイ、オマ

左下:オムニバス「Жаны Ырлары No.3」

【収録アーティスト】アルティナイ・ナルバエワ、アスカット・ムサベコフ、チンギス・ミルザエフ、ディナラ・アクロワ、エディル・ママトフ、グルジギート・サティベコフ、グルナラ・カハロワ、グリャンダ、グルジナト・スランチエワ、イリヤズ・アンダシュ、ナリンベック・カリバエフ、ナズィラ・トコノワ、オマール、ローザ・アマノワ、スルタン・サディラリエフ、アバズ&エディル

オムニバス「Кыргистан Обондору」

【収録アーティスト】アビル・カセノフ、アイベック・バキトベコフ、アルセン、ベック・ボルビエフ、ビズ、ダニヤル・エルマトフ、グルジギート・カリコフ、グルジギート・サティベコフ、イリヤズ・アブドラザコフ、ジェベ、ミルベック・アタベコフ、ノチノイ、ノンストップ、ヌルバキト・ラザコフ、ヌーラン・ナシフ、ヌーラン・サディロフ、オークランド、オマール、ポププリ

 

(Ling Muコメント)

・日本のCD店のワールドミュージックコーナーを見てもキルギスのポップス作品はまず見つからない。伝統音楽ならある時もあるが、あとはせいぜい上記のグルムの作品ぐらいだろう(日本語曲だが)。ウズベクやカザフと違いあまりポップスが盛んでないのかと思ってしまうが、YouTube等では結構見ることができる。

 

・ウズベクのヤッラ、カザフのA.スタディオ、トルクメンのグネーシュのようにソ連時代から人気のグループも特に無く、確かにキルギスと言えば!というアーティストが思い浮かばず、ポップスの歴史自体は短いのかも知れない。中国に留学していた90年代、キルギス人の留学仲間から数曲キルギスポップスを聴かせてもらったが、ギターの弾き語り系や歌謡曲調等一応ポップスもあるのだな、といった感じで、その友人も歌手名までは知らないぐらいだった。また、当時エレスという人気バンドがあったということまではわかった(既に解散)。

 

・キルギスを訪ねた時は全体的な滞在時間が少なくじっくり探せなかったが、イシククル湖に向かう車中、ある交差点でDVDを売る店舗がちょっと気になって運転手に停めてもらうと、そこにいくつか音楽CDやMP3も売られており購入。そしてイシククル湖畔の街チョルポン・アタのあるお土産屋の片隅にもCDを見つけたのでラッキーだったと思う。専門的にCDを売る店は見かけなかった。

 

・オムニバス作品の歌手名を見ててふと気付いたんだけど、どうやらグループ名の後には「トブー(Тобу)」を付けるようだ。中国語でもバンドなら「〇〇楽隊」、ポップスグループなら「〇〇演唱小組」といった言葉が後に付くし、「〇〇バンド」みたいな感じの意味かな。

 

次回は一旦の最終回、モルディブを訪ねます。

 

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第四十二回「カラカルパクスタン」

 訪問時期:2013年9月

 訪問地:ヌクス、ブスタン、ムイナク

 


中央:オムニバス「Erkin Karakalpakstan」:初めて現地ポップスのCDが見つけられなかったため、やむなくの対応。現地バザールであちこち探し回ってやっと見つかったのはPCから空のCD-Rにダウンロードされたもののみだった。カラカルパクスタンポップスが300曲ぐらい入っていた中で27曲をチョイスしてCDに焼き、自分でジャケットを作った自己編集アルバム。ジャケットにはこれまたなかなか見つけられなかった現地語新聞をモチーフに使い、新聞の名前である「エルキン・カラカルパクスタン」をそのままアルバム名にした。

【収録アーティスト】アリシェル・アラムベルゲノフ、アリシェル・カシモフ、アレバイ・アラニヤゾフ、B. ウテジャノフ、バウィルジャン・ハメドゥラエフ、バクティヤル・ジュマタエフ、ダリャバイ、G. ムンティーワ、グルバハル・クルバンバエワ、ハッサン・アブドラエフ、ニエトバイ・オテジャノフ、プルハット・ベグジャノフ、サラマット・カリベコフ、シラーズ、アバト・カディルバエフ、アマン・エレジェポフ、バクティヤル・アルジモフ、バイラム・ペルデバエフ、グルナラ、カリク・コシギ、ラフマン・ギタリス、サイオラ

 

(Ling Muコメント)

・まずこの国って何? という人も多いと思うので(と言うか、この国名でピンと来る人ってよほどのシルクロードマニア?)まずは基礎知識。この国は中央アジアのアラル海、キジル・クム砂漠、カラ・クム砂漠に囲まれたウズベキスタン内の自治共和国(つまり独立国ではない)。でもウズベク人とは違う独自の民族がいて、独自の言葉が話されている。

 

・なのでこの国のポップスもまた、独自の言葉カラカルパク語で歌われている。郷土愛が強いのか、歌詞には「カラカルパク」や「ヌクス(首都)」といった言葉がよく入っている。ウズベキスタンの歌手よりも長い名前で舌を噛みそうな発音の人が多く、正直どの歌手が一番人気なのかはよくわからないが、たまにYou Tubeで見ることもできる。

 

・しかし残念ながら、その国を訪れたら必ず現地ポップスのカセットかCDを入手しているコレクターのLing Muでも、この国のポップスのCDを見つけることはできなかった。見つけられたのは現地ポップスをPCからダウンロードした無地のCD-Rだけ。とは言えこのCD-Rには300曲近いカラカルパクスタンポップスが入っているため、いっそ自分で作っちゃえと自己編集のオムニバスアルバムを作ったのだった。この辺の顛末は下記旅行記を見てみて下さい。

 

https://ameblo.jp/szkasia/entry-11769958877.html


https://ameblo.jp/szkasia/entry-11840392336.html

 

・さすが300曲近くあるだけにバラエティに富んだ内容となっていて、結婚式で踊るような西部ウズベク民謡的(ファンの間ではホラズム・ポップスと呼んだりする)なコテコテのド演歌風や、アラブのダブケ(これもまた伝統的なダンス音楽)風、ロシア風、フォークバラード風と面白い一品となった。中にはそのままJ-Popにしてもよさげな曲も。

 

・この国からCDが消えたのには、民間でリリースするCDや書籍に高額な税金を課したこと、海賊版が厳しく取り締まられたことが背景にあるようだ。なのでそれ以前はCDが存在していたと思われる。以前中央アジア音楽が好きな人々の飲み会に参加した際、ある女性が昔カラカルパクスタンを訪れ、現地でCDを買ったけど多分家の物置のどこか奥にあるかも~、なんて言っていた。ああ、それLing Muにとっては超超プレミア品なのだが…。これ読んでる方でどなたか過去にこの国でポップスのCDを買ったよって方がいたらご一報を(笑)。

 

・世界的にCDという音楽ソフトが売られなくなってきているこの頃、そのうちこの国に限らず、CDってもう見つからなくなっていくのかなと思うとコレクター的にかなり悲しい。

 

次回はキルギスを訪ねます。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第四十一回「チュニジア」

 訪問時期:2013年1月

 訪問地:エル・ジェム、タメルザ、トズール、ドゥーズ、クサルギレン、マトマタ、タタウィン、メドニン、カルタゴ、シディ・ブーサイド、チュニス

 


左上:モハメド・ジェベリ「Mohamed Jebeli 1」…正統派アラブ歌謡のスター。レバノンやエジプトでも有名なナンバーを歌っている。

左中:ガリア・ベナーリ&ティムナー「Wild Harissa」…アラブ・アンダルース音楽と呼ばれるイベリア半島の音楽とアラブ音楽が融合した曲を現代風に哀愁込めて歌うグループ。ラテン風の曲調と見事に噛み合っていて、地中海を挟んだ南欧との近さを感じる。

左下:エメル・マトルティ「Kelmti Horra」…ジャスミン革命の際、立ち上がる人々をメッセージソングで鼓舞した女性歌手。メッセージ性だけでなく素晴らしい声量と広い音域、これはみんなついて行くよな、という納得の歌唱力。昨年来日ライブしたそうだが気付くの遅く残念!

右上バルティ「Balti & Le Best Du Rap Francais」…チュニジアで割と流行っていたヒップホップの代表的歌手。フランス語によるラップアルバムというのは、フランス語が浸透しているマグレブ諸国ならでは。

右中:エル・ジェネラル「Sound of Tunisia」…同じくチュニジア・ヒップホップ界の第一人者。タイトル曲"Sound of Tunisia"は複数のアーティストと一緒に英語やアラビア語で歌われた感動的な曲。Ling Muは結婚披露宴のBGMでも流してしまった。

右下:ミラス「Shehili」…チュニジアのメタルバンド。メンバーが魔法を駆使して子供を助けに魔界に乗り込む動画のシリーズはよく作り込んである。ボーナストラックにはメイン曲の日本語バージョンが収録されているが決しておふざけではなく、カッコよく歌いこなしている所はさすが、の一言。



左上:アミナ「Yalil」…90年代から女優兼歌手として活躍。細野晴臣とコラボした縁で日本でも発売されたアルバム。

右上オムニバス「Rap Tunisien 3」…アラブの春に関係してると思われるラップミュージックのオムニバスアルバム。リビアの国旗をセンターに置いているのでリビアのヒップホップかとちょっと期待したのだが詳しい解説は無く表記もアラビア語のみなので詳しいことは全く不明。

【収録アーティスト】不明

下:ウレド・ジュイニ「Sans Visa」…CD屋さんの奥の方にまだカセットテープも少し売られていたので興味本位に一つ買ってみた。

 

(Ling Muコメント)

・チュニジアはアフリカの国なのでアジア・ポップ・コレクションという題目だと語弊があるけど、北アフリカは中東の一郭であり、そこのポップスはアラブポップスの一郭である以上切り離しては考えられないので、ここのコーナーでは北アフリカまで紹介します。と言ってもまだチュニジアしか行ったことないけど。

 

・アラブポップスの有名な線ではラティファという女性歌手がチュニジア出身だが、地中海色の強いアラブ・アンダルース音楽や革命ラップ、スピードメタル等この国ならではの豊富な表現方法による作品も多くて面白い。

 

・アジアのポップスの祭典ABUソングフェスティバルの2016年インドネシア大会にアラブ枠として同国のルツフィ・ブシュナクが出場。他の国が全員若い女性歌手である中、10分以上ある伝統大衆歌謡を歌い上げたのはまるで"無法松の一生"を熱唱する村田英雄のような貫禄があってすごいインパクトだった。


・僕が一番好きなチュニジアのアーティストは上記でも紹介したヒップホップのエル・ジェネラルとジャスミン革命でメッセージソングを歌って活躍したエメル・マトルティ。これは彼女の代表作https://m.youtube.com/watch?v=wJ79iEfus8E&feature=emb_title


。2015年にチュニジアの民主化勢力がノーベル平和賞を受賞した式典で歌った時のもの。

 

次回は「カラカルパクスタン共和国」を訪ねます。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第四十回「北キプロス」

 訪問時期:2012年5月

 訪問地:ギルネ、レフコシャ



左上:ジェブデット・アクテペ「Hasertim Sana」…ギター一本で情熱的に歌うシンガーソングライター。間奏の所でトルコ語の語りが入るのが特徴。

左中:ウムット・アルバイラク「Umut」…中堅女性歌手と思しき実力派。少し東ヨーロッパ風のメロがある。

左下:ヨルジュラリ「Sabret Gülüm」…フォーク系グループ。楽器的、曲調的にギリシャの要素が感じられるのはこの国ならではか。哀愁あるこの曲なんかいい。

右上:エイレム「Bugun Burda」

右中:ファーメ&ジャポン「Ikisi Bir Arada...」…ヒップホップのデュオ。なんで日本を意味するジャポンなのかなと思ったら、二人のうち一人が何となく日本人に似てなくもない(普通のトルコ人でもたまに日本人に似た容姿の人がいる)。

右下:トラフィック「Daglar Mi Yoller Mi」…この国のポップバンドのようだが、あまり特徴は無い感じ。

 

(Ling Muコメント)

・エーゲ海に浮かぶ島キプロス。ギリシャとトルコの間にあり、二つの民族が共存していた国だが、現在北半分がトルコ人の国「北キプロス・トルコ共和国」、南半分がギリシャ人の国「キプロス共和国」の二つの国に分断している。南側はギリシャ文化圏でEU加盟国なので欧州の一国と数えられるが、北側はトルコのみが承認している言わばトルコの属国である。なのでここでは北側は中東の一郭と見なし紹介したい。

 

・とは言え民族的にはトルコと同じなので、この国の人々はほぼトルコ本国のポップスを聴いている。CDを売る店にも何軒か訪ねたが、90%以上トルコの作品であり、ほんの片隅に申し訳程度に北キプロス出身歌手の作品が置かれていた。YouTubeで北キプロス歌手の曲は聴いたことがあったのでポップスが存在するとは思っていたが、本国でも存在感は大きくない様子だった。

 

・とりあえずCDはあるだけ買ってみた(それでも5, 6本)が、基本トルコポップスと大きくは変わらない。地方のトルコ人歌手といった感じである。ただ、ヨルジュラリというグループ等どこかギリシャっぽい響きを感じる曲もあって、この両国融合感こそ北キプロスらしさなのかな、と信じたくなったりする。

 

・南側の方が独自のポップスが確立しており、今年日本で開催された「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」にも出演したグループ、ムッシュ・ドゥマニ等国際的にも名の知れたアーティストもいる。一応北側からグリーンラインを越えて南側の首都ニコシアを三時間ばかり散歩し、CD屋さんも見つけたものの、トルコリラしか持っていなかったので買い物ができず何も買えなかった。ま、南側は欧州なのでコレクション対象ではなかったけど、それでもちょっと惜しかった。

 

次回はチュニジアを訪ねます。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第三十九回「トルコ」

 訪問時期:2012年5月

 訪問地:イスタンブール、デニズリ、ギョレメ、ユルギュップ、メルシン、スィリフケ

 

 

左上:アジダ・ペッカン「Seni Sectim」…トルコポップス界のベテランの一人。言葉わからなくてもこの歌声はジーンとくる。

左中:バルシュ・マンチョ「Live in Japan」…今は亡きアナドル・ロックのアーティストによる日本ライブアルバム。かなり上手な日本語のMCも入っているし、"時の旅人"という日本語曲も披露した。

左下:モル・ヴェ・オテスィ「Masumiyetin Ziyan Olmaz」…トルコのロックと言えばこのバンド。

右上:カルゴ「Yildizlarin Altinda」…お気に入りのロックバンド。タイトル曲のYou tubeを見て気に入った。出会ったオヤジ達が実は天使?! 原曲はトルコ歌謡界の大御所ゼキ・ミュレンの懐メロ

右中:エディップ・アクバイラム「Özgürlük」…70~80年代から活躍するトルコオリジナルのロック「アナドル・ロック」の旗手の一人。ロックなんだけどどこか哀愁のあり、民族楽器サズも使われている。

右下:ニル「Nil FM」…この時点での正しい芸名はニル・カライブラヒムギル。多分長いのでその後「ニル」にした。どこか東欧風のメロが入ってる感じがすごくいい。トルコ航空に乗ってイスタンブールに行った際にトルコポップスを聞いていたが彼女の曲が一番好きな曲調だった。

 

 

左上:ハンデ・イェネル「Tesekkurler」…現地でタクシーに乗ったらよく流れていたので流行っていたのだろう。

左中:メラル - ズハル「Koyutürk Şarkılarıyla」…トルコのザ・ピーナッツ。60~70年代歌謡曲って世界共通なのか、昭和ポップスと似た香りがする。

左下:メリケ・デミラ「Geri Dönüşüm」…トルコのオールディーズにちょっとハマったので。「Arkadaş(友達)」はいい曲。

右上:エゴイスト「Artik Yetar」…女性ボーカルのロックバンド。

右中:オムニバス「Bak Bir Varmış Bir Yokmuş - 2」…60~70年代のトルコポップスのオムニバス。この時代の方がイスラム色が薄く、西洋的なのは発見。"ある愛の詩"のトルコ語カバーもあり。

【収録アーティスト】アジダ・ペッカン、アイ・フェリ、ダリオ・モレノ、エンギン・エヴィン、フュション・オナル、ギョニュル・トゥルグット、フメイラ、イルハム・ゲンチェル、ラレ・ベルクス、メリケ・デミラ、ネスリン・スィパヒ、ニルフェル、オミュル・ギョクセル、ラナ・アラギョズ、セルジュク・アラギョズ、タンジュ・オカン、ヤシャル・ギュベニル、アイラ・アルガン、アイテン・アルプマン

右下:ヨンジャ・エヴシミク「Kendine Gel!」…噂によると中島みゆきの”ルージュ"をトルコ語カバーで歌ったらしいがこのアルバムには無し。

 

 

左上:タルカン「Ölürüm Sana」…恐らく一番名の知れたトルコのアーティスト。リッキー・マーティンの出現によりラテン風ダンスポップが世界中でブレイクした頃、中東にもこんな感じのアーティストが多く現れた。

左下:セゼン・アクス「Git」…トルコ歌謡界の大御所。ハスキーな声と哀愁あるメロディーがいい。

右上:モル・ヴェ・オテスィ「Dunya Yalan Soyluyor」…このバンドの"Cambaz"という曲が好きだったが上記CDには入っておらず、もっとよく探してみたらカセットテープで見つかった。

右下:ファティ・エルコチ「Ellerim Bomboş」…90年代、アジアポップスの祭典ABUソングフェスティバルの前身であるABUゴールデンカイト・ソングコンテストにトルコ代表で参加。ヒゲもじゃながら甘いバラードが得意。

 

(Ling Muコメント)

・中東の国ながら共和国革命以来、欧州的な世俗社会を目指してきたトルコ。そのポップスも本当にイスラムの国かと思うぐらい欧米風のポップスが主流だった。その一方で演歌的立ち位置である民謡を現代風にアレンジしたハルクや、アラブ風音楽の大衆歌謡アラベスク等、民族色の濃いジャンルもあって住み分けがされていた。

 

・ヨーロッパのポップスの祭典 "ユーロビジョンコンテスト"にも代表を出しているが、そこでは中東チックなメロディのアーティストが出場することが多く、ヨーロッパ人に異国情緒を与えてポイントを稼いでいる感もあった。一方、アジア各国のポップスの祭典であるABUソングフェスティバルにレギュラー参加している唯一の中東の国でもある。2019年の東京大会ではトルコポップス界のスーパースター、ムスタファ・サンダルが来日出場した。

 

・ロックの歴史は意外と長く、トルコ伝統音楽と欧米ロックを融合させた"アナドル・ロック(アナトリアのロック)"というジャンルがあり、エルキン・コライ、バルシュ・マンチョ、エディップ・アクバイラムといった伝説のスターを数々生み出している。最近ではアメリカ発ラテンポップの世界的ヒットの影響で男性歌手タルカンが有名になった。

 

・訪問した当時、CD屋さんではカセットもまだ少し売られており、PCからCD-Rにダウンロードするサービスも行われていた。都市の中心では本屋さんにCDコーナーがあったりもした。

 

次回は北キプロスを訪ねます。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第三十八回「トゥバ」

 訪問時期:2011年9月

 訪問地:キジル

 

 

左上:サインホ「Out Of Tuva」…日本の追分を思わせる伝統的な超高音歌唱を現代風のメロディに盛り込んだ技巧作。日本で初めてリリースされたトゥバポップスの作品。

左下:ヤトハ「London 2005」…ホーメイの一種で超低音のカリギュラーという歌唱法で奏でられるロックバンド「ヤトハ」は海外にも知られているが、これはロンドンでのライブアルバム。頭蓋骨が振動するほどの低音と表現されたことがあるが、サインホは超高音だし、トゥバポップス極端過ぎ。

右上:イゴール・オンダル「Хоругдал」…トゥバの谷村新司か堀内孝雄か。昭和なテイストを少し感じるトゥバ語の歌謡曲。

右下:ベッラ「Bella」…こちらはもっとポップな感じのトゥバ語曲。ホーメイとか伝統音楽を意識しない普通の現地ポップスがやはりいいね。

 

 

左上:オムニバス「Roman Ondar - Anchy Salchak」…同国の中堅歌手二人のカップリングアルバム。細身の方のアンチ・サルチャクはトゥバのテレビの歌番組で司会をやっていた。

【収録アーティスト】ロマン・オンダル、アンチ・サルチャク

左下:オムニバス「Гитарамга Уян Ырым」…懐かしさ溢れるフォークな感じの曲を多く集めたアルバム。ホーメイ歌手として有名なコンガルオール・オンダルもギターの弾き語り+ホーメイという少しモダンな曲を収録。現地を訪れた時、郊外散策に行った際にいろんな縁があって車を運転してくれたのは何と、ここに収録されたアーティストの一人、サイダシュ・モングーシュ。

【収録アーティスト】アイディスマー、アンドレイ・モングーシュ、アヤス・ダンジリン、エルティネ、コンガルオール・オンダル、メルゲン・クーラップ、ラディク・チョリューシュ、サイダシュ・モングーシュ

右:オムニバス「Нoвoe Иeсни, Нoвoe Иeвци」…上記とは打って変わって、こちらは若さ溢れる男性アイドル系歌手達のオムニバス。トゥバの歌番組でも彼等がステージに上がると黄色い声が飛び交っていた。

【収録アーティスト】アイダル、アイディン・アリグ、アルディン、アンチ・サルチャク、アルティシュ・アカー、アルティシュ・ダルジャイ、チャリム、チャリシュキン、チンギス、ダンダル、ヘレル・メクレル・オール、メルゲン・クーラップ、ナチン・ウェル、シルディス&エレス、トゥメン、イシュキン・オール

 

(Ling Muコメント)

・聞いたことない国名だと感じる人の方が多いと思うのでまずは基礎知識。トゥバは東シベリア、モンゴルの北西にあるロシア連邦内の共和国(つまり独立国ではない)。この国の大多数を占めるトゥバ人はチベット仏教を信仰する民族で、見た目日本人そっくり。未知の国ながら意外にも日本と同じ東アジアに位置している。喉を駆使して高音と低音を同時に発生するホーメイと言う伝統歌謡(モンゴルではホーミーと呼ばれる)が有名。

 

・共和国の国語はトゥバ語とロシア語。先に訪ねたカルムイク共和国では多くの人が日常的にロシア語を話していたのに対し、こちらは街中ではほとんどトゥバ語が話されている。2011年時点であるが首都の街中ではスーパーとか、キヨスク風の店舗で現地ポップスのCDが売られていた。全てCD-Romにコピーしたようなものだったが、一応ジャケットのカラーコピーも付いていて、辛うじてCDアルバムの体裁は保っている。むしろ正規版ってあるの?って感じ。

 

・ホーメイに代表される伝統音楽なら「フーンフルトゥ」というグループ等が世界的にも有名。ホーメイ歌手の故コンガルオール・オンダルも有名であるが、上記アルバムではギター伴奏でホーメイを歌ったり、アメリカのブルース歌手とのデュエット作品をリリースしたりと現代を意識した作品を作っていた。ポップスでは追分を思わせる高音の歌唱をベースにした女性歌手サインホや、逆にカリギュラーというホーメイの超低音の歌唱をベースにしたロックバンド「ヤトハ」等が世界的に有名。案外彼等のアルバムは普通のCD屋さんではなく、むしろお土産屋さんで見られた。

 

・トゥバのテレビには独自のチャンネルはなく、普通のロシアのチャンネルがある時間帯だけトゥバ語放送になっていて、その時間枠の中で歌番組も放送されていた。アイドルオンステージのような番組では数々の男性アイドルがトゥバ語のポップスを歌い、観客の女性達が熱い声援を送る所なんか世界共通。ホーメイ等伝統歌謡に現代のテイストを織り交ぜたアーティストよりも、トゥバの一般人の間ではこうしたトゥバ語による普通のポップスが主流なのだな、と感じた。

 

次回はトルコを訪ねます。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第三十六回「アゼルバイジャン」

 訪問時期:2011年4月

 訪問地:バクー、シェキ

 

 

左上:ムスリム・マゴマエフ「Благодарю тебя」…70~80年代ソ連歌謡界のスターの名曲集で全曲ロシア語。ジャケットの9・1分けのルックスや三大テノールを思わせる太い声が一見強面だが、オペラ風、ロシア民謡風、60年代アメリカポップス風(ポール・アンカみたいな)等、意外と幅広くてソ連の意外な一面を感じられる。

左中:ムスリム・マゴマエフ「С любовью к женщине」…モスクワ・シェレメチェボ空港のCD店で購入。アゼルバイジャン独立後間も無く他界したが、本国はもちろん、旧ソ連諸国でもレジェンドであることに変わりは無い。

左下:ラシッド・ベフブドフ「Anacan」…こちらもアゼルポップス黎明期のレジェンドで全曲アゼリー語。声楽家のようなバリトン風で歌うかと思えば、この地域独特の裏声を混ぜた歌唱法を使ったりして、クラシック風、民謡風、ジャズ風等を器用に歌いこなす。

右上:キョニュル・カリモワ「Bu Geca」…愛知万博のコーカサス館で購入。ジャケットだけ見るとデュオのようだが、右隣の男性カッバル・ムサエフは一曲だけゲスト参加みたい。

右中:リョヤ「Seçmeler」…人気女性アーティスト。そのまま聴いているとトルコポップスのよう。

右下:ザミック「Sen Nece de Gözelsen」

 

 

左:アゼリ・ギュネル「Adi Yok」…トルコの演歌的立ち位置の歌謡曲「ハルク」の作品。主にトルコで活動するアゼル人歌手のようだ。"Kustum"という曲のサビの部分がさだまさしの"無縁坂"によく似ててびっくり(多分偶然だと思うが)。

右:ズルフィヤ・ハンババエワ「Sensiz」…田舎町にぽつんとあったカセット売り場で購入した中堅女性歌手の作品。

 

(Ling Muコメント)

・アゼルバイジャンのポップスの黎明期のレジェンドは上記アルバムで紹介したムスリム・マゴマエフとラシッド・ベフブドフの二人。マゴマエフはどちらかと言うとアゼルバイジャン出身のソ連歌謡界のスターと言った方が正しく、80年代後半に開催された東京音楽祭ではソ連代表で出場している。持っているCDも全曲ロシア語で、これらの曲は他の旧ソ連圏の歌手にカバーされ、その人気を伺える。一方のベフブドフのCDは全曲アゼリー語で、30年代から歌っているので、収録曲の多くは古いレコードを聴いてるような時代を感じさせられる。

 

・二人のレジェンドは独立前後に世を去り、以降はトルコポップスの影響を受けたアゼリー語ポップスが定着。アゼルバイジャンはヨーロッパ最大のポップスの祭典「ユーロビジョン」に参加しているのだが、2011年、同国代表のエル&ニッキーの歌う英語曲「Running Scared」が見事優勝を果たし、翌年は首都バクーで開催。ユーロビジョンも普通の英語ポップスコンテストのようになってきているから、アゼル色はほとんど無いのだが。いや、しかし、さっきからロシア的、トルコ的、そして英語と言ってるが、アゼル色って一体何だろう…。

 

次回は「トゥバ共和国」を訪ねます。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第三十六回「北朝鮮」

 訪問時期:2010年9月

 訪問地:ピョンヤン(平壌)、ケソン(開城)、サリウォン(沙里院)、ナムポ(南浦)

 

 

左上:ポチョンボ「Huipalam(口笛)/韓国版」…北朝鮮初のラブソングと呼ばれた「口笛」のアルバムは海外にもリリース。韓国でも有名となり、これは恐らく正規ではないが韓国版。なのでジャケットには本国ではタブーな表現「北韓歌謡」と書かれている。日本版のラインナップと比べると政治色のある曲は外され、アリランとか民族共通の歌に置き換えられている。

左下:ワンジェサン「Dance Music (2)」…ポチョンボと共に90年代を牽引した二大ポップスグループの一つ。ワンジェサンのアルバムは歌よりもインストロメンタルの方が多い。

右上:キム・スンラ (金勝洛)「Eonjena Gaseumsok e(いつも心に)」…劇団四季の俳優としても有名。民謡で鍛えた声量が映える。全曲朝鮮語でポップスと民謡が半々だが、タイトル曲の "いつも心に"とか好きですね。

右下:リ・ヨンス(李栄守)「Somang(希望)」…実は在日向けのある雑誌を見て、懸賞に応募したら当たった貴重品。本国でもよくコンサートをしているらしい金剛山歌劇団所属の歌手。名曲 "イムジン河 (リムジン河)"も圧巻。

 

 

左上:ユン・ハンシン(尹漢信)「Three Homes」…日本語メインでサビの部分に朝鮮語を入れた在日ポップスという面白い試み。"星を追いかけて"はジーンときます。

左下:シポ「シポという小さな言葉」…ハーモニーが素敵な女性デュオによるミニアルバム。"ナエ チョゴリ"は考えさせられる歌詞、そして美しいラストのハイトーンな美声。"口笛"をジャズ風にアレンジしてるのもいい感じ。

右上:Sala13「Sala13 Best」…朝、韓、日の混成パンクバンド。「サラ・トレイズ」と読む。" So I'll let you go with a smile" と"チング"が特にしびれるし、全ていい曲。

右下:ワンジェサン「Wangjaesan Light Music Band 8」…出国時、平壌空港の免税店で購入。1ユーロを払い、最後の最後に初めてガイド無しで一人で買い物した記念品。インストロメンタル中心だが、冒頭曲クライマックスで繰り広げられる高速バイオリン演奏は何度でも聴きたくなるほど天才的。

 

 

左上:ポチョンボ「Huipalam(口笛)/日本版」…高校時代、"口笛"を聴きたくて総連系列の朝鮮レコード社に何度も入荷確認の電話をして入手した日本版(と言っても全曲朝鮮語だが)。

左下:ポチョンボ「Shine, Jong Il Peak」…中国留学時代、北朝鮮の留学生から頂いたポチョンボの20番目のアルバム「輝け正日峰」。独特のシンセサイザー演奏とソプラノな歌声の典型的なポチョンボ曲だ。

右上:ポチョンボ「Film Music 2」…こちらも同じく頂いた22番目のアルバム。映画音楽特集らしい。

右下:ポチョンボ「Lee Jong O Chakgukjib 1」…ある作曲家や作詞家の作品を集めたアルバムはありがち。"私の国が一番いい"等、鼓舞させるような曲が多くてなかなか。

 

(Ling Muコメント)

・北朝鮮本国のポップスはプロデューサーが国のトップであるだけに、曲こそ沢山あれ、やはりどうしても均一的傾向になりがちなので、以前インドポップスの紹介の中に在英インド人アーティストを含めたのと同様、海外在住の朝鮮系コミュニティ(つまり在日同胞)のミュージックシーンにおけるアーティストの作品も一緒に紹介することで内容に広がりを持たせたいと思います。他意はありません。

 

・金正日氏がナンバー2 として頭角を現し始めた頃、当時音楽と言えば革命歌しか無かった所に電子楽器で演奏するポップスグループバンドがプロデュースされた。ポチョンボ(普天堡)電子楽団とワンジェサン(旺戴山)軽音楽団がツートップとして同国のミュージックシーンをほぼ独占。アルバム数は三桁に及び、映画音楽特集とか、ある作曲家特集等で一つのアルバムが作られる。ポチョンボのメンバーはキム・グアンスク、チョン・ヘヨン、リ・ギョンスク、チョー・グムファ、リ・ブニ(後に追加・交代あり)の5人の女性ボーカルで、曲ごとにメンバーの一人が歌い、残りのボーカルはラスト部分のコーラスで加わるのが一般的。ボーカルの他に演奏をする楽団員も合わせてフルメンバーとなっており、同国のポップスグループはほぼこの形態である。

 

・上記二大グループはポップスとは言っても多くは政治色の強いプロパガンダ的な内容であるが、80年代後半、ポチョンボの"フィパラム(口笛)"という曲が現地で大ヒットしていることがニュースになった。同国初の政治色の無いラブソングと言われたためである。既にアジアポップスのカセットをコレクションし始めていた高校時代、これはぜひとも聴きたいと朝鮮総連傘下の朝鮮レコード社に電話。普通の日本人がいきなり朝鮮ポップスのカセットが欲しいと連絡したためか最初は警戒されたが、何度か電話していくうちにもうすぐカセットを入荷する、という返事を頂き、半年ぐらいして遂に購入できた。更に数年後、留学先の北京で同国の留学生に出会った時、これらの曲を話題にしたら結構仲良くなれた。

 

・金正恩政権転換期、楽団系ポップスグループもまたウナス(銀河水)やモランボン(牡丹峰)に代替わりを果たす。韓流を意識しているのかルックスやダンスにも少しこだわりを見せているようだが、CDが出てないのが残念。ウナスは現地でDVDを買ったが、友人に貸して失くされた(泣)。

 

・在日コミュニティ向けのポップスも意外とあるようで興味深い。総連系の金剛山歌劇団の流れを汲む歌手の曲はより本国に近い雰囲気があり、そうでもないアーティストはJ-Popやロック寄りなのでバラエティも豊富。コミュニティのイベントの場を中心に出演するのだと思うが、ここ最近の情勢もあってなかなかイベントを開きにくいのか、ライブで聴く場面にはなかなか出会えない。すべての国に言えることだが、政治と文化・芸能は分けて考えたいと切に思う。

 

次回はアゼルバイジャンを訪ねます。

Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第三十五回「ブータン」

 訪問時期:2010年5月

 訪問地:ティンプー、プナカ、ウォンディフォダン、パロ

 


左上:タシ・ネンチャ「Zangtho Pelri」…どちらかと言うと伝統音楽のグループだが、まだポップスが確立していない頃、現代楽器を使って伝統と現代を融合させるアレンジ等を行い、ブータン・ポップスの礎を築いたグループでもある。でもこのアルバムはやはり伝統寄り。

左下:ツェテン・ドルジ「Denmay」…ギターを持って後ろを向いた姿のジャケだが、全体的に暗めでよく見えない。ポップスの作品はオムニバスが多いので、単独アルバムが出ているということはそこそこ有名なのだろう。

右上:オムニバス「Yue Ghi Bhu」…映画のサントラ盤がポップス作品になるのはインドに似ているが、もちろん映画とは関係の無いアルバムも多い。本アルバムはのんびりした演歌調が多いね。

【収録アーティスト】デチェン・ペム、ジグメ・ニドゥップ、ナムゲイ・ジグス、リンチェン・ナムゲイ

右下:オムニバス「Sem Gawai Tasha」…出国時に余った現地通貨を使い切るため、たまたま免税店で見つけて購入したので詳細は全く不明。ジャケットからは映画かドラマのサントラ盤に見えるが、ググってもこのジャケット以上の情報は見つからず。なので誰が歌っているのかもわからない。

【収録アーティスト】不明



左上:ツェリン・ドルジ「Kolors」…民族衣装 "ゴ" を着てエレキを持った、正にブータンポップスと聞いて思い描く絵柄のジャケットがいい!そして曲調がJ-Popに近くて聞き心地が良い。ただ名前がツェテン・ドルジとよく混同する。

左下:ケンチョ・ワンディ「Demissa」…見た目、ブータンの長渕剛。実際ギター一本で歌うシンガーソングライターのようで、曲は少しロックっぽさも漂う。

右上:オムニバス「Alone...a Salitary Soul」…のんびり系ヒマラヤポップスな感じのオムニバス。文化圏も近いだけあってチベット風なメロディも感じる。

【収録アーティスト】ナムゲイ・ジグス、ペマ・タイ、ソナム・ヤンキ、ウゲン・ティンレイ

右下:オムニバス「Miss You」…四人組のバンドのアルバムかと思って買ったら、四人の別々の歌手のオムニバスアルバムだった。シンセサイザーの打ち込みを多用している分、上記「Alone...~」よりやや賑やかに聞こえる。

【収録アーティスト】ジミー・シンゲ、ニマ・ワンディ、タンディン・ソナム、テシ・ドルジ

 

(Ling Muコメント)

・ブータンはインドほどではないものの、映画挿入曲がヒット曲となることも多く、You Tubeでもブータン映画のミュージカルシーンを見ることができる。なのでCDにもこうした映画のサントラ盤が見られるが、映画とは関係の無い普通のポップスも多い。曲的にインドの影響を受けているかと言うとそうでもなく、ちょっと洒落た雰囲気の歌手の作品はJ-Popと曲調が似ていたりする。

 

・国語であるゾンカ語は方言の差が激しく、標準語として統一された形態がしっかりできていないこともあって、驚くほど英語が普及している国である。でもブータンポップスに英語曲は見られない。サビに英語を使うケースも少なく、そこはよく頑張っているが、ブータン人がそもそもちゃんと聴いているのか。欧米の英語ポップスやインド映画音楽ばかりではいけないぞ。

 

・伝統音楽を中心に演奏するグループ「タシ・ネンチャ」が現代風の音楽を取り入れてアレンジしたことからブータンポップスが発展していったと言われる(映画サントラ曲は古くから存在していたかも知れないが)。彼等は90年代に国際交流基金の招待で来日コンサートを行ったことがあり、見に行ったことがある。終了後に係の方に彼等のCDかカセットは入手できないか尋ねた所、基金がサンプル曲を数曲保管しているので、空カセットを送ればダビングするとの神対応をして下さった。サンプル曲なので四、五曲だったが忘れられない思い出。尚、このグループは「花  すべての人の心に花を」を日本語のままで歌っている。

 

次回は北朝鮮を訪ねます。