明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~ -2ページ目

いつかの少年みたいに。

まだ7月も初旬だというのに、本日もいつものように朝から茹だるような暑さに辟易しながらも、文句の一つも口にせずしっかり出勤するオレ。

つーかそれって社会人として当然のことじゃねーか……などという意見は受け付けない。

だってほら、オレって褒められて伸びるタイプなのだから。

とは言っても、オフィス内は必要以上の全力稼働を強いられたクーラーが力を発揮し快適この上ないんですけどね。

 

そんな凍えるような状況下、熱々のコーヒーを啜りながら朝の一時を満喫していると、窓際の上司が徐に口を開く。

 

「おーい、誰かこの資料を大至急届けてきてくれないかー」

 

オレはそんな声など聞こえない素振りでモーニングコーヒーを啜る。

ただひたすらに啜る。

 

「おーい、お前だよお前、つーか今日お前しかいないだろ」

 

まさかとは思いつつも、オレは声の主の方を振り返ってみる。

 

「そ、お前だ」

 

やべぇ、オレか……。

つーかザキの野郎はどこに行ったんだ?

辺りを見渡してもその姿は見えない。

あ、そう言えば、昨日の帰りに面倒くせー仕事をヤツに放り投げて、今日は朝からその処理に向かわせたんだった。

くそがっ!

 

オレは渋々立ち上がり、上司から書類を受け取る。

そしてこれまた渋々車のキーを取り早速外出する準備をする。

時刻は10時。

すでに太陽は容赦のない日差しをこれでもかと降り注ぎ、まだ一歩外に出たばかりのオレのやる気をそぎ落とす。

そしてダメ押しと言わんばかりに、ドアを開けた車の中からは十分に加熱された熱気がオレに向かって襲いかかる。

意を決して素早く運転席に飛び込み、エンジンをかけてエアコンを全開にしまた外へ飛び出す。

煙草に火をつけしばらく日陰で時間を潰した後、再度車に乗り込むと、車内からは程よく熱気が奪われいい具合になっている。

オレは早速荷物を後部座席に放り投げようとドアを開ける。

 

「なんじゃこりゃ?」

 

そこに無造作に置かれた雑誌。

手に取ってみると、およそこんな時間じゃその詳細を口にすることが憚れるような大人向けの雑誌がそこに鎮座していた。

誰だ、会社の車でこんなもん読んでいるやつはっ!

まぁいいや。

 

なんだかんだ言ってエアコンの効いた車内は快適で、さっき飲み干すことが出来なかったコーヒーに代わり、冷たい缶コーヒーを味わいながらドライブを開始する。

 

港町の漁港に隣接された目的の企業への訪問をさっさと済ませたオレは、せっかくだからと船着場まで涼を求めてぶらっと歩いた。

一通り辺りを散策した後、さて帰ろうかと車に戻ろうとすると、ふとある光景が目に付く。

それは無造作に重ねられた網や碇などの漁業資材に、まるで屋根でも掛けるかのように、そして壁を作るかのように置かれた古びたトタンやらベニヤ板の残骸だった。

オレはすぐにそれが何なのかが分かった。

 

「こいつは秘密基地じゃねーか!」

 

子供の頃、まさにここと同じような港町で育ったオレは、幼き頃全く同じような遊びをしたことがある。

なんだか懐かしくなり、草の生い茂ったその場所に足を踏み入れ中を覗き込む。

そこにはおやつを食べた後の残骸や、皆で持ち寄ったと思われる漫画などが散在していた。

 

なんか、懐かしいなぁ……。

そう呟き、まるで昔の自分がそこで仲間と作戦会議をしているような光景を想像してみた。

もう一歩中へ踏み込むと、散らかった漫画に紛れて少しだけ際どい、まぁこんな時間でも口にしても良いような程度の雑誌があるのを見つけた。

 

オレは車へと戻った。

そして、後部座席に置かれた雑誌を手に取りまた秘密基地に戻る。

 

「これはオレからのプレゼントだ、とっとけ」

 

そう呟いて雑誌を基地の中に放り投げ、オレはまた車を走らせ会社へと戻った。

 

 

 

そんな感じで。

少女だったといつの日か思う時がくるのさ。

仕事帰りのランニングを始めて、だいぶ時が経過いたしました。

もちろんダイエットのため、健康のために始めたのだが、まったく体型に変化が見られず、地味にやる気をそがれる。

石の上にも何とかとは言いますが、3年も待ってられない。

体重は落ちてるんだけどなぁ……。

 

まぁいいや。

 

今日もオレは日課のランニングのために定時で職場を後にする。

 

「おいザキ、これとあれとそれと、あとオレの机の上も片付けておいてくれ」

 

本来は山ほどやることがあるのだが、それら全てを部下、ザキに押し付けてオレは帰宅の準備をする。

もちろん、ザキにはこう言い聞かせている。

 

「いいか、これは全てお前が早くいっぱしのサラリーマンになるための試練だ。本当はオレがさっさと片付けてしまいたいのだが、ここは心を鬼にしてお前に託す。いいか、明日までやっとけ。若い時の残業は必ずお前の糧となる。サッカー見てーから帰るとかもってのほかだぞ!」

 

ザキは、ちーっすとお決まりの返事でオレを見送る。

結局翌朝、全てをオレがやり直すことになるのは、今はさほど問題ではない。

くそがっ!

 

 

オレのお気に入りのランニングコースは、市の税金をたんまりつぎ込んで作っちゃいましたって感が否めない運動公園の敷地内だ。

そこには野球場からサッカー場、更には陸上用のトラックからテニスコース、そしてゲートボール用のグランドまで完備された総合運動場だ。

残念なことに、平日の夕方はそこを利用する市民は数えるほどしかいない。

そのひとりがオレって寸法だ。

 

オレを含め2~3人のおっさんが、いつもそこの外周に整備されたランニングコースを走っている。

まぁ体感だからよく分からないが、一周3km弱かと思われます。

走っているとすれ違うのはおっさん。

そしておっさん、おっさん、おっさん……。

減量が目的であるので特に問題ではないのだが、どうせなら素敵なお姉さまのランナーとすれ違いたいと思うのはココだけの話である。

 

だが、そんな加齢臭漂う運動公園内に、正に紅一点ほぼ毎日顔を見せる女性がいる。

彼女はいつもオレより早くそこを走り始め、オレが帰る頃にもまだ走りをやめようとしない本格派のランナーだ。

彼女はいつも陸上用のトラックをひとりひたすら何週もかなりのスピードで走る。

オレはいつも外周コースからその姿を眺め、ため息を漏らす。

とにかく彼女の走りは本格的である。

一応若い頃は陸上部で慣らしたオレの目にも、彼女の走りが尋常ではないことは一目瞭然だ。

 

彼女はいつもランニングキャップを深く被り、明らかにレース用のシューズとランニングシャツとランニングパンツを身に纏い走っている。

そして何より素晴らしいのはその体型だ。

女性らしさを残しつつ、無駄を全てそぎ落としたその体型は見る者全てを魅了する。

 

オレもまるで憧れの目で彼女の姿を時折追った。

 

で、本日、いつもより調子の良かったオレは少しだけ多めに走り、汗だくで車へと戻りいそいそと着替えをしていると、そこへ同じように走り終えた彼女がやって来た。

オレの車の斜め前方に駐車してあるのがどうやら彼女の車らしい。

オレは始めて間近で見る彼女の姿に興奮を覚えた。

やはり近くで見ても正にパーフェクトな体だ。

 

感心して見つめていると、彼女は徐にキャップとサングラスを取る。

それと同時にオレの鼓動は高鳴った。

 

あ、あれ?

 

 

 

思い込みとは恐ろしいものだ。

その走りから勝手に想像していた彼女の年齢とはかけ離れた、正に初老と言っても過言ではない姿がそこにあった。

 

 

そんな感じで……と言いたい所だが、オレは深く反省した。

もう年も年だから昔みたいに本格的に走るなんて不可能だと自分に言い聞かせていたが、明らかにオレより一回り以上年上の彼女の走りを見たら、グダグダ言う暇があったら毎日あと一周走る事から始めるべきだなと。

 

と、いいつつも、今宵も既に片手をオーバーする缶ビールを飲み干す自分に乾杯だ。

 

 

 

以上。

男が負けを認める時。

人が生きるってことは、知らず知らずのうちに多くの犠牲を生じさせる。
我々の血肉となるために沢山の命が奪われ、そんな命をオレたちは食し生きる力や活力を得る。
だけどオレたちは忘れてしまっている。
食物連鎖の一端を担うべき自然の摂理を無視し、悪戯に地球上の命を滅する存在である人間。
 
時に争い、時に奪い合い、だけど弱者は強者に屈する……。
 
 
 
東北地方は、毎日晴天と雨天の紙一重と言うような天候が続き、なんとも煮え切らない日々が続いている。
休日である今日、オレは久々に昼過ぎまで惰眠を貪るつもりでいたのだが、暑さと異常に高い湿度の不快さには勝てず寝床を這い出す。
時刻はまだ午前8時前、オレは苦笑いで朝刊をポストから引き抜き、糖質0の缶コーヒーの蓋を開けて煙草に火をつける。
一通り新聞に記載されたどうでもいい記事に目を通した後、それと共に配達されたカラフルな広告に目を通すと、近くのショッピングモールが夏物のセールを行っていること知る。
 
「夏物バーゲンか。行ってみるか……」
 
そう呟きオレは身支度を整え、形式的な朝食を済ませるとまた煙草に火をつけて車を走らせた。
 
目的のショッピングモールに到着すると、休日だというのに思ったほどの混雑もなく何となくほっとする。
今日の目的はTシャツとポロシャツ、もし安くて品の良いスーツがあればそれも購入しようとオレは多くあるテナントを片っ端から冷やかし始める。
 
始めに足を踏み入れた店で目を奪われる。
 
『店内のスーツ全て半額』
 
うほっ!
この店のスーツといったら、オレのお気に入りだが普段その値段がネックとなり中々手が出ないことで有名なアレじゃないか!
それが半額だとっ!?
オレは軽い興奮状態となり、次々と商品を物色する。
これもいい、あ、これもいいな。
そうしていると、ひとりの男性が手にしているスーツがオレの目に飛び込む。
 
「あ、アレいいなぁ……」
 
男の手にしている商品は、正にオレ好みの一品だ。
男はその彼女だか嫁さんだか知らんが、連れの女性とあーでもないこーでもないといいながら袖を通したりしている。
オレは念を送る。
買うなー、買うんじゃねー!?
そうすると、その男は一端そのスーツから手を離し、店内の他の商品をまた物色し始める。
オレはここぞとばかりにそこへ歩み寄り、そのスーツを確認する。
よし、値段サイズ共にどんぴしゃだ!
だがちょっと待てよ、今日は店内全てがバーゲン、ここで即決する前に他の店舗も見て回ってからでも遅くはない。
 
そうしてオレも一端それを手から離すと、再び他の店舗を確認しようとその場を離れた。
 
広告で知らしめるだけあり、ショッピングモール全体に夏物を本気で処分しようと言うオーラが漂う。
オレはいくつも店を回り、満足のいくTシャツとポロシャツをゲットすると、ちょっと休憩でもしようかと喫茶スペースを求めてさ迷い歩いた。
そうすると先ほどお気に入りのスーツを見つけた店舗の前で、女性店員が声を上げているのに気付く。
 
「今から店内の商品、表示の値段から更に15%オフのタイムセールを開始しますっ!」
 
なんだとっ!
半額だけでも驚愕に値するのに、更に15%オフだと!?
それを聞いたオレは、最早のどの渇きなどすっかり忘れその店に飛び込んだ。
 
一目散に先ほどのスーツが掛けられた場所へ向うと、オレより先に目的のスーツを物色していた男もそこへ向って足早に進む姿が見える。
オレは、ここは絶対に負けるわけには行かないと、更に進む速度を上げる。
あぁ、いつも仕事帰りの日課として数キロのランニングを己に課して体を鍛えていて良かった。
正に普段意味も無く走っているのは今日この日のためなんだと理解し、オレは己の肉体に鞭を打つ。
チラッとライバルに視線を向けると、男の出足は鈍く勝利は目前だった。
だがその時、オレの視線にあるフレーズが飛び込む。
 
「こちらの商品すべて90%オフ!!」
 
なんだとっ!
そこに陳列されたTシャツがなんと全部9割引き!
オレは一瞬足を止める。
後から迫る男もオレと同じ箇所で足を止めた。
いかんっ!
こんなところで浮気してる場合じゃない。
Tシャツならもう既に他の店で購入済みじゃないか!
そう自分に言い聞かせその場を後にしようとすると、ひとりの女性店員がオレの側に駆け寄り声を掛ける。
 
「お客様、Tシャツをお探しですか?こちらの商品は今だけ全て90%オフになっているのでお買い得ですよ♪」
 
あぁ、なんてことだ。
普段ならそんな声無視するのに、今オレに話しかけているのは、背が高くて細身で、多分Cカップ以下のメガネ美人じゃないか……。
 
ふとライバルの男に目をやる。
そうすると、そいつのところにも刺客が迫っていた。
だが、男はそんな誘惑には目もくれずその場を後にしようとしている。
オレは、オレは、オレは……。
 
背が高くて細身で、多分Cカップ以下のメガネ美人の誘惑には勝てず、その場に立ちつくした。
 
You Lose!
 
 
結果、オレは背が高くて細身で、多分Cカップ以下のメガネ美人の誘惑には勝てず、どうでもいいTシャツをもう一着購入した。
 
ライバルの男は、誇らしげに目的のスーツを手に取り、その満面に笑顔を浮かべ試着室へと姿を消した。
 
 
時に争い、時に奪い合い、だけど弱者は強者に屈する……。
 
正にオレの完敗だった。
 
 
 
そんな感じで。


ラン&ガン。

「先輩、俺走りには自信があるんです。任せてくださいっ!」
 
ザキは声を大にしてそう言うと、オレから書類を奪うようにして受け取り、車から飛び降りて走った。
 
ザキはこの春の新卒採用でオレの下にやって来た新入社員だ。
言うまでもなく不況と呼ばれるこのご時世、わが社も大卒若干名、高卒若干名の募集をしたのだが、驚くほどの応募があった。
人事部は入社試験に未だかつてない超難問を用意した。
オレもチラっと眺めたが、自分が今年入社試験を受ける身ではないことに感謝するほどに難しい問題のオンパレードだった。
会社側は名目上、高卒も入社試験の対象としていたが、実際は大卒の受験者の中から成績優秀な者を数名採用しようとしていたのは、高卒者にも大卒者にも同じ問題を課した時点で明らかだった。
 
たまたま受験者の履歴書を眺める機会があったのだが、そこに書かれた学歴にオレはため息を幾度もついた。
国立大卒はもちろんのこと、有名超一流私大を卒業した者たちが多くいた。
不況の波は、オレみたいなヘドロ野郎が在籍する企業にまで一流大学卒の学生を送り込むのかと思うと、またため息が出た。
 
結局、5名の採用が決まった。
そして、その中にいたのが唯一の高卒であるザキだった。
 
新人がオレの下に来る。
そう言われ人事部長からオレは呼び出される。
 
「春から君の下に新人をつける。唯一の高卒採用者だ。だが全てを不採用にするつもりで作成したあの問題を、2位の成績で突破したヤツだ。一流大学を出たやつよりも高得点を取った男だ。高校ではラグビー部の主将を務めガタイもいい。正にお前の部下が打って付けだ。頼むぞ」
 
そうしてザキはやって来た。
ザキはオレの命令に忠実に従った。
 
「いいか、分からないってことは恥ずかしい事じゃない。分からないことを分からないままにしてしまうことが一番の罪であり、みんなに迷惑をかけることになるって事を忘れるな。お前は成績優秀だって事は聞いてる。だけどオレ達はお前の何倍もこの仕事をしているって事を忘れずに、分からない事があったら何でも聞いてくれ。分かったか?」
 
そう言うオレの言葉にザキが応える。
 
「ちーっす!」
 
…………。
さすが体育会系出身だけある気合の入った返事だ。
そして、それからザキの質問攻めが始まる。
 
「先輩、この漢字なんて読むんですか?」 
 
「それは築地(つきじ)だ。まぁ地名だから覚えとけ」
 
「先輩、この漢字なんて読むんですか?」
 
「ああ?為替(かわせ)だ」
 
「それってどういう意味ですか?」
 
「ほら、辞書には遠く隔たった者の間に生じた金銭上の債権・債務の決済または資金移動を、現金の輸送によらずに行う仕組み……って書いてあるだろ。まぁ覚えとけ」
 
「債権・債務ってなんて読むんですか?」
 
「ほら、辞書貸すから調べてみろ」
 
「先輩、辞書に給付とか返還って言葉があるんですけど、どういう意味っすか?」
 
「……。んじゃそれも調べろ」
 
「先輩、話は変わりますが、課長がこの資料の数字を全て2割引きに書き直せっていてるんですが、どういう意味っすか?」
 
「まぁ、それは全部の数字を20%offで表示すりゃいいんだよ」
 
「それってどうって計算するんすか?」
 
「おいおい、お前、採用試験2位で通過したんだろ?それくらい分かるだろ?」
 
「いやー、試験は全部選択式だったモンですから。何となく答え選んだだけです」
 
「あぁ、そういうことか」
 
「そういうことです」
 
 
 
ある日の午後、電話を受けたザキが言う。
 
「先輩、部長が資料を忘れたから大至急届けてくれって言ってます」
 
なに?
その日の部長の予定といったら、商談のために海外へ向うためこの時間は空港にいるはずだ。
オレは急いで車をザキに用意させ、部長の机の上から該当する資料を探す。
 
「先輩、車用意できました!」
 
オレ達は急いで空港へ向った。
フライトの時間までは猶予が殆ど無い。
 
空港への車中、ハンドルを握るオレにザキは言う。
 
「オレ、今度トライアスロンに出ようと思うんです。足には自信があるし、中学は水泳部で全国大会にも出たんですよ。だから夏のボーナスで自転車買おうと思ってます」
 
オレはそれどころじゃなかった。
部長が飛び立つまで時間が無い。
悪いがザキの言葉にはウンウンに気の無い返事をした。
 
間一髪空港に到着したオレ達は、車を駐車場に入れて部長の下へと急ぐ。
 
「先輩、俺走りには自信があるんです。任せてくださいっ!」
 
そういってオレから封筒を奪い取るザキ。
 
「お前、空港には来た事があるのか?いいか、国際線だぞ!国内線と間違うなよ!」
 
ザキは走りながらちょっと頼もしげに軽く手を上げた。
だが一抹の不安が拭いされないオレは、ヤツの後を追って走った。
 
さすがに足に自信があるというだけある。
オレの本気の走りでもヤツには追いつけない。
きっと、オレのベストランを見せたところで、今日のザキの走りには勝てないかもしれない。
 
ラン、ラン、ラン。
直向に走るザキ。
 
だが……。
 
「おーいザキ、そっちは国内線の入り口だぞー!」
 
オレの声を聞いたザキは、空港の入り口の間近で走りながら振り返る。
 
「え、何ですか?」
 
そして彼は、ガンっ! という大きな音を立てて自動ドアにつっこんだ。
 
ドアは壊れなかったが、その激痛にもだえ苦しむ彼を尻目に、オレは地面に落ちた書類を拾い上げ、国際線ゲートへと向って急いだ。
 
 


そんな感じで。

傀儡と政と私。

『昔はよかったとかなんとか、しみじみと言ってくれるな』
 
などと誰かがシャウトするのを、うんうんと頷きながら聞いてはみたものの、人は古き良き時代を時折思い出しては涙するものであります。
懐古主義……なんてのを否定する輩もいますが、過去を振り返らずに前だけ向いて明るい未来へまっしぐら!なんてのは不可能だ。
いや、言い切っちゃうとなんやかんやと語弊が生じるかもしれないので言い直す。
過去を振り返らずに前だけ向いて明るい未来へまっしぐら!ってちょっと難しいよね。
うん、これでいいだろう。
 
とにかくね、前に進もうと思った時、新たに何かを生み出そうと思った時にその指針となり比較対象とするのは、先陣のお偉いさんの残した痕跡だったり過去の自分の残した功績だったりするのは間違いないだろう。
それらを目標とし、より良いものを目指し時折後ろを振り返ってみることも必要でしょ。
「つーかそれって懐古主義とは言わないんじゃねーか」と言わないでください。
話が終わっちゃうから。
 
閑話休題。
 
引っ越しを間近に控えているオレは、このところ暇を見つけては家中の片付けに精を出している。
「これは必要、あ、これはもう捨てようか?」
などと、元グラビアアイドルで健全な青少年の夜のお供にして、一昔二昔前の中高生の下半身強化運動に大いなる貢献を果たし、今や日本の国政にまでその力を見せつける、仕分けと男性の下半身傀儡のスペシャリスト蓮○よろしく、オレはばっさばっさと不要な物を切って捨てる。
これ捨てるのもったいないな……なんて思いは、仕分けの達人としてもプライドが許さないので迷ったら斬る。
ざっくりと。
 
ある時、古びれた見慣れぬダンボールを発見しそれを開封する。
そこに入れられた数冊の古い大学ノートの一冊手に取りページを捲る。
そして言葉を失う。
 
『全国の頂点に俺は立つ!』
 
なんだこれ?
お前は手足がゴムみたいに伸びる麦わら帽子を愛用するいかれた海賊か?と突っ込みたくなるようなフレーズがその見開きにデカデカと書かれていた。
はやる気持ちを押し殺しながらゆっくりとページを捲ってみると、懐かしい記憶が蘇ってくる。
これはオレが高校生の頃使っていた、自主トレ記録日記だ。
当時けっこう本気になって部活動をしていたオレは、夢はでっかく全国制覇を目指していた。そのためには学校での練習では物足りず人一倍自主トレに精を出していて、これはその頃の記憶だ。
 
○月×日
朝……ランニング5km
    腕立て100回×3、腹筋100回×3
夜……穴ジャンプ100回
    腕立て100回×3、腹筋100回×3
    背筋100回×3
※今朝のランニングに時間をかけすぎたため、電車に乗り遅れ遅刻。ちんたら走ってる場合じゃないと自覚する。
 
 
とまぁこんなことが延々と書かれていた。
結局、井の中の何とかレベルから脱却できず、全国の舞台ではコテンパンにされたのは忘れられない苦い思い出ではある。
 
懐かしさついでに当時のアルバムを引っ張り出して眺めてみた。
あの頃の仲間たちと屈託無い笑顔を見せる自分がいる。
何故か上半身裸で。
つーか、部活の練習の時に撮影された写真は、自分を含めみんなが裸だ。
まぁ、男子校だったということと、特に夏場の練習はTシャツなど着ていたところで吸収しきれないほどの汗を掻いたから、いつもこんな感じだったと思い起こす。
そして何より、皆誰に見られても恥ずかしくないくらいに体が鍛え上げられていて、腹筋なんて70個くらいに割れてボコボコだった。
 
オレはふと着ていたシャツを脱ぎ棄てて、姿見の前に仁王立ちになる。
その両手に腹回りへこびりついた贅肉を掴んで……。
 
 
あの頃の自分に戻れたなら。
今のオレがあの頃のように直向きになり、目標に向かって努力することができたなら……。
 
 
 
そうしてオレは翌日から走りだした。
あの頃のようにとはいかないまでも、仕事帰りのランニングとわずかばかりの筋トレを始めた。
とりあえず5kgの減量を目的とし、オレは動き出した。
超久々の運動はすぐにオレの体に悲鳴を上げさせて、強く心に誓ったはずの目標を打ち砕こうとする。
だけど疲れたら休み、休んだらまた走り出すことを繰り返し、何とか1ヶ月継続することができた……。
 
そしてオレは体重計に乗る。
己の努力がきっと報われたに違いないと、懐疑心の欠片も持たず飛び乗る。
が、無情にも体重計の針が示したのは、1ヶ月前のそれと全く同じ個所であった……。
 
ま、こんなもんだよねー。
つーか、食事制限とか一切してなかったし。
酒の量、特にビールの摂取量なんてのは、走った日の方がめっちゃ多くなってたしね。だって、汗かいた後のビールって滅法うまいじゃない?
そもそも、食いもんとか飲み物を制限するくらいなら、今の体型でいいしさ。
 
でも、なんだかんだいって、運動をすることの心地よさを思い出したオレは、その後も地道にメニューをこなし続けた。
  
その後も体に何ら変化が見られないまま月日だけが流れたある日、オレはちょいとドジを踏んでしまい結構酷い怪我を負ってしまう。
数十針縫う羽目となり、医者からは怪我の治りに多大な影響を及ぼすからと10日ほどの強制禁酒を課せられた。
くそがっ!
本来なら医者の言うことなど無視するのだが、さすがに痛みには勝てず大人しく従った。
すると……
 
「おや?体重が5kg減ってるじゃない!?」
 
怪我の影響でランニングはおろか筋トレすらも全くできなかったのに、ほんの1週間足らずで体重が一気に落ちた。
まさに怪我の功名とはこのことだ。
 
冷静になって減量の理由を考えてみた。
それは、毎日のビール摂取量が尋常ではなかったんだと理解する。
元来食が細いオレが巨大化する理由、それは酒だった。
ついでに完全体を誇っていたあの頃のオレと今のオレの違いはなんだったのか。
 
それは、あの頃は未成年、そして今は非の打ちどころのない成年、むしろおっさんだということだ。
そうだ、あの頃だって堂々と酒が飲めたのならあんな体を維持できたはずがない!従って今の自分と比べたってしょうがないじゃないかと結論に至った。
 
酒さえ我慢すれば痩せる!
さぁ、これで如何にすれば完全体を取り戻せるかは分かったと、今宵もオレは7本目の缶ビールの蓋をブシュっと空けながら日記を綴る。
 
つまるところ、変わったのは体型だけじゃない。
時の流れと共に根性も尖った所を失い、丸くなり我慢することを忘れたのだ。つーか我慢する気がないだけか。
あ、変わっていないのは○舫が今でもオレにとっては夜のグラビアアイドルであるのは間違いない。
あぁ蓮○さん、夜な夜な僕の生気を吸い取るだけではなく、どうか贅肉と汚れた根性も仕分けてくださいな。 
 
ま、久々だからこんなもんだろ。
 

 
 
そんな感じで。

イマジンが教えてくれた。

平和という言葉の捉え方って、人それぞれだ。


それこそテレビで熱弁を振るう偉い学者さんたちは、世界がどうだとか戦争がどうだとか、一見本気になって訴えているようにも見える。

でもね、学者なんて職業の輩はしょせんオレたちみたいな低脳な連中の理解を超える、つかみどころの無いことについて日々研究し、その内容をお馬鹿がギリギリ理解できるかできないかのレベルまで噛み砕いて言及しちゃう。

だから、庶民は学者さんのことを自分よりも優れた思考を持つと錯覚してしまい、どこかで敬ってしまってるのではないだろうか。

でもそれはお偉いさん方が、己の地位を庶民のチョイ上に維持しようしてる行為なだけなんだけどね。

何言ってんでしょうね、オレ。

なんかよく分からなくなってきた。



まぁそれがあの人たちの仕事だから当たり前だって言えば当たり前だ。

我々が上司の視線に怯えながら、せっせと請求書を作ったり苦情の電話を処理するのと、世界平和を説くのは同じこと。

それが自分の仕事で金が欲しいから、知ったこっちゃねー苦情にも平謝りで対応するし、核なんかいらねーなんて叫んだりもする。

いやいや世界平和に利害関係は存在しないんだ。

そんなこと言うヤツがいるからいつまでたっても世界に平和は訪れないんだというやつはスルーすりゃいい。

  



国境が無く、ただ地球があるだけ…。



それこそが世界平和だ。

だけどそんなモンはしょせん表面上の仲良しごっこに過ぎない。

人の心の奥底には少なからず憎悪の念が潜んでいて、どんなに平和な世界になってもその小さな念が集まり増幅され、また血みどろの歴史を繰り返すのが世の常だ。

人と人との関わりは、幸福と不幸を繰り返し生み出す永久運動なんだ。

だから俺はイタズラに人と関わることを極力避けてる。

どうよお前、日々上司にぶつぶつ文句言われて憎悪の念が湧き上がってこないか?

それが貯まりに貯まってやがては世界の平和をも乱すことになるんだ。

だから俺は自ら社会の一線から退いた。

俺が今定職に従事していないのは、つまりは世界平和のためなんだぁーーーーー!

どう、分かったユキオ君?



あ、すいませーん、生ビールと極上牛タン塩焼き追加してくださーい!

  

  



オレのおごりでしこたま酒と肴を喰らいながら、上機嫌で友人は言いました。



ニート暦5年の友人が言いました。

  

そう、暇人が教えてくれました。

 

ごめん、イマジンじゃなかった…。

 

 



そんな感じで今年もよろしく。




月のうさぎ 太陽の切り餅。

子どもの頃ってさ、年末って言うとどこか特別な雰囲気があったと思うんだ。

テレビでは年末のアニメ特番を放映したり、家中では大掃除が始まったり、正月に向けての餅つきがやお節料理を母が作ったり。

何より冬休みってスペシャルなイベントがあったじゃない。

 

それが今じゃどうだ。

不況だ不況だと言われ、年末も年始もギリギリまで働かせられる。

正に働けど働けど我が暮らし楽にならず……ってのを体現しているようじゃないか。

 

閑話休題。

 

とりあえず休日の本日、オレは愛車軽No.1で買い物に出掛けた。

年末の酒の肴を求めて市場へと向った。

もちろん子牛を荷馬車には乗せていない。

まぁいいや。



「さぁさぁ、正月飾りが安いよー」

 


とか


 

「マグロのいいところ、ブロックでこの値段、買わなきゃ損だよー」

 


威勢のいい声が辺りにこだまする。

この雰囲気、嫌いじゃない。

自然と財布のヒモが緩む。

勢いに呑まれ必要のないアレとかコレとか買ってしまう自分に苦笑いしつつも、満更ではない顔で闊歩するオレ。


さて、そろそろ帰るかと、両手に荷物を持って帰路に着こうかと思うと、あるフレーズが目に飛び込んできた。

 

 

「月のウサギがついた餅の福袋1万円!」

 

 

なに!?

月のウサギだと!

オレは目を見張る。

そして自然とその足は、当該広告を掲げた店舗へと向けられた。

 

 

「お、お兄さんさすがだね!おっと、こいつは福袋、中を覗くなんて野暮なことはしちゃいけないぜ!」

 

 

一体何が入っているのだろう。

オレの好奇心はマックスに達する。

だがコイツの正体を知るには金1万円を散財せねばならない。

迷いに迷った挙句、オレはついに財布の口をあけた。

つーか、まだ年も明けていないのに、福袋購入という暴挙に出る。 


 

「毎度!いい年迎えてよー!!」

 

 

そういう店員に後押しされながら、オレは急いで車へと向かい、購入した福袋の中を確認した。

月のウサギがどんな仕事をしたのかを確認すべく、ビリビリと袋を破くようにして中身を取り出す。

 

そうすると、中から佐○の切り餅が。

およそ食いきれないほどの○藤の切り餅の群れがオレを襲う。

 

なるほど、この餅を製作している会社ってのは、月のウサギが経営していたのかと己に言い聞かせ帰路に着く。

 

 

まだまだあの頃、冬休みマンガ劇場を楽しみにしていた自分と変わらないメルヘンチックな心は失っていないことを、最後の諭吉を散財して確認することが出来た、有意義な一日だった。

 

くそがっ!

 

 

そんな感じで。


親にも内緒の恋物語。

もはや記憶も定かではないのですが、確か初秋の頃だったと記憶しています。


大好きな焼きそば(ソース味・目玉焼き乗せ)をわちゃわちゃと頬張っていましたらね、奥歯の方でガリッ……なんて鈍い音がして、その発生源付近に激痛が走る。
なんだなんだ、卵の殻で入ってたのか?くそっ、奮発して目玉焼きなんぞオプションで頼んだのが仇になったぜと一瞬辟易するも、さっさと異物を口の中から吐き出して食事の続きを楽しもうと舌先で探ると、何やら当該奥歯にぽっかりと穴が。
そしてそれと同時に口から吐き出された銀色の物体。
まぁ言うまでもなく、以前治療した箇所に収められていた銀の詰め物が取れてしまった模様……。
 
クソッ、面倒くせー。
とりあえずこのまま放置するのもいろいろ問題があるので、早速職場の近くに良さそうな歯科医院がないか、ネットで探ってみた。
そうすると気になるフレーズが。

 
『年中無休 午後は9時まで診察』

 
ほほう、年中無休とな。
しかも21時まで診察オッケーってのは、くたびれたサラリーマンに優しいことこの上なしだ。
オレは早速予約の電話を入れてみる。
 


「はぁーい。〇〇歯科クリニックっでーーーす(はあと)」
 


なんだこいつ……。
確実に頭のネジ何本か緩んでいる、もしくは主要箇所の歯車が噛み合っていないと推測される輩の登場に、オレの背筋には図らずも緊張が走る。
 


「あの、そう言う訳で今日の午後なんとか診察していただくことはできないでしょうか?痛くてたまらんのですが……」
 


「ええとぉー、8時くらいなら空いてますけどどうしますか?」
 


くっ、8時か……。
普段ならとっくに帰宅完了してビール喰らってる時間だが、とにかくこのぽっかり開いた穴を何とかせねば飯を食うのもままならない。



「ええ、それで構いません。背に腹は代えられませんから」
 


「え?何と何を交換したいんですか?」
 


「…………。ええーと、それでいいです。それではその時間に伺います」

 


「はーい。お待ちしてまーす」
 
 
もうね、言葉が無かったです。
電話の声から察するに若いお姉ちゃんのようでもあるし、でもよく考えてみると今どきっぽいと思わせて、今時の娘がそんな話し方をするかというと若干ズレがあるようにも思われる。
ま、どうでもいいですけど。
とにかくオレは指定の時間に歯科医へと向かう。
 


「こんばんはー。で、今日はどうしたんですか?」
 


いやいや、奥歯がって話を前提に予約したと思うのだがって言葉を飲み込む。
つーか、目の前にいる受付の女性が余りのも美しいので、そんなことはどうでもいい。
 
そんな感じで、オレの歯医者通いが始まる。
 
もうね、見ているだけで心が温まるっていうのかな、受付のお姉さんの顔を見るだけでもここに来る意義がある。
まぁ話し方にはかなり癖があるし、ちょっと天然なところがあるのは否めないが、とにかく世界の美人が3大ではなく16大くらいと称されるなら確実にランクインするであろうその方に会えるなら、オレの歯など綺麗さっぱり抜き去られてもいいと言う気概でオレはせっせと通った。
 
毎週1、2回のペースで通っていたのだが、仕事の都合で1ヶ月ほど出張せねばならなくなり、彼女ともしばしのお別れとなったのだが、先日久々の再会を果たすためウキウキで再び歯科医を訪れた。
 


「ユキオさぁーん、1ヶ月のぶりの治療ですが今日の気分はどうですかぁ?」
 


お、なんだなんだ?
いつもはネジ緩めとは言えそっけない感じだったのに、今日はオレの体調を気遣ってくれちゃって。
そうかコイツ、さてはオレに気があって、久々の再会を喜んでるな。
なんて思っていると、治療の順番が来て名前を呼ばれた。
 
診察台の上で待っていると、直ぐに先生がやって来て言う。
 


「はいお待たせ。今日は体調もいいみたいなので予定通り抜歯、しますね」
 


そして先生は麻酔の注射やらペンチのような獲物やらあれやらこれやらを、ニヤニヤしながら取り出す。
少なくとも俺の目にはヤツがニヤニヤしていたように見えた。
その時、オレの記憶がグルグルと巡った。
そうだ、そう言えば出張へ出掛ける前の最後の治療の日に、次は親知らずを抜くって言っていた……。
 
 
激痛に耐えながらも、無事に抜歯が済んだ。
だが出血が止まらず、奥歯に脱脂綿の塊を噛んだままで会計となる。
 


「お疲れ様でしたー。ええとぉー、明日は消毒しなくちゃいけないのでぇー、なるべく来て欲しいんですけどー、午後5時以降しか空いてないですが都合はどうですかぁ?」
 


折りしも明日はクリスマスイブ。
さすがに聖なる夜にこんなトコ来たくないと思いつつも、まぁこのお姉さんの顔を見れるというクリスマスプレゼントを貰ったと思えばいいかなと、奥歯をかみ締めたままで思い問い掛ける。
 


「ふがふがふが……(お姉さんは明日も仕事してんですか?)」



「え、アタシですか?明日はイブなので休み貰っちゃいましたーうふふ」



くそっ、だが背に腹は代えられん。
出血も止まらんことだし。


 
「え、何と何を交換したいんですか?」



…………。



そんな感じで。

王様基準。

基準ってあるじゃない?
何事にもとりあえず満たさなければならない条件みたいなやつがさ。
とりあえず希望の高校に合格するためには、5教科で400点以上は必要だぞーとか、付き合うんだったら身長180cm以上なきゃ嫌だとか。

まぁアレだけどさ。
結局コンスタントに400点取ってたヤツが不合格で、一度も基準点をマークできなかったヤツが合格したり、彼氏できたーとかって言いながら紹介された友達の彼氏が、おいおい180に達するのにどんだけシークレットなブーツ履かなきゃならんのだよと言いたくなる様な、ちんちくりんだったりと、意外とそんな基準の定め方が曖昧だったりするのが世の常でありますよね。
 
まぁいいや。
 
先日の話ですがね、会社の後輩が昼時にオレのところにやって来て言う。
 
「先輩、近くに美味いラーメン屋ができたんすよ!今日の昼飯にどうですか、一緒に?」
 
ほう、美味いラーメンとな。
彼は会社の後輩といえども、その付き合いは学生時分からの腐れ縁であるので、オレの趣味嗜好についてそれなりの理解を持っている。
オレは間髪入れずに問い返す。
 
「そうかい。ならば基準を超えているってことか?」
 
後輩はニヤリと不敵な笑みを浮かべ言う。
 
「ええ、味噌はともかく、醤油はいい勝負ってとこです。醤油派の先輩でですからここは攻めるべきでしょう!?」
 
オレは後輩と握手を交わし、そそくさと出掛ける準備を整える。
そうすると、オレたちの会話を近くで聞いていた一人の同僚が口を挟む。
 
「お、なになにあそこのラーメン屋って美味いんだ?俺も一緒に行こうかなぁ。ところで基準ってなに?」
 
オレは後輩に目配せをして、同僚に説明するように促す。
 
「田中先輩、そりゃラーメンの基準って言ったらアレですよ。百獣の王がライオン、そして昆虫の王がカブトムシならラーメンの王はまさしくラ〇!ラーメンの王ラ〇!」
 
それを聞いた同僚の田中は眉をしかめる。
 
「そっか、ラ〇といい勝負なのか……」
 
 
 
結局オレは後輩と2人で勝負を挑むこととなった。
 




『本日休業』
 



 
そしてオレたちは小雪の舞い散る路地を、肩を窄めてトボトボと歩き職場へ戻る。
 
途中、コンビにに立ち寄りラーメンの王様を購入して。
 
「先輩、やっぱカップ麺なのにラ〇は高すぎるので、俺はぺ〇ングにしますね!」
 
 
あぁ……。
 
 
そんな感じで。

ひねもすのたりとりあえず。

一般庶民に優しくない季節って言えば、そりゃ冬に決まっている。


服はいつもより多く何枚か身につけなければならない。

何らかの手段を使って部屋を暖めなければならない。

忘年会とかって言いながら、無礼講なんていいつつも上司に気を使いながら、飲みたくもない酒を会費払って飲まなければならない。

車のタイヤは冬用のそれに履き替えなければならない。

大して好きでもない恋人にそれなりのシチュエーションとプレゼントを用意して、せっかく身につけた衣服を剥ぎ取る努力をせねばならない。


あーやだやだ。

散財だー!散財だー!

冬なんか嫌いだ。


でもね、そんなサラリーマンを苦しめるためだけに訪れる季節、冬にも助け舟ってのがあるのね。

もうね、オレなんてこの時のためだけに1年苦い汁を啜って生きてるって言っても過言ではないイベント、冬のボーナスって一大イベントね。

 

やったー!

やったよー!

 


つーか、ボーナス無しってなにさ!

冬の一大イベント無しってなにさ!?

 

 

「今年は冬の賞与ないしょうよ!?」

 

 

とかって、お前アホだろ?

洒落じゃ済まねーから!

 

ま、いいか。

 

 

さてと、ボーナス目当てに購入したアレとかコレとか、どうやって支払いしようかと模索してみた。

 

①踏み倒す

②踏み倒す

③踏み倒す

④君は1000%

⑤海辺に浮かぶ物語

⑥人は大人になる度弱くなっるよね

⑦セシル

⑧浅香唯

 

うん、ここは⑧の浅香唯で行こうと思う。

 

「おまんら、許さんぜよ!」

 

↑いや、それは南田洋子だし。


↑つーか、南野陽子だから。 



と、冬のボーナス一括払いで購入したパソコンで、心に浮かぶよしなしごとをそこはかとなく書きつづってみる。

 

 

そんな感じで。